インタビュアー
井上知之先生
「はなまる魔法教室」についてお聞きします。
「はなまる魔法教室」は、初めての連載作品ということです。
そうです。
大学生の時も漫画を描いていて、その後も幾つかの賞を受賞していました。
ただ、掲載までは時間がかかり、読み切りばかりでした。
そのような時に、WEBマンガの裏サンデーで新連載の連弾が始まるという話を聞き、連載の機会を得ました。
「はなまる魔法教室」は、どのようにして誕生したのでしょうか?
初めは、担当の編集と編集長の3人で話をしました。
描きたいネタは幾つかありましたが、一から一緒に考えることになりました。
その中で、自分が教員免許を持っていたため、教師物をやってみてはどうかといった提案がありました。
なるほど。
正直、その時は安易だと考えました。(笑)
ただ、まずは生徒を1クラス分考えてみることを提案され、それは面白そうだと思いました。
生徒は、性格や関係性だけでなく、それぞれが持つ悩みも考えました。
特別な悩みというよりは、普通程度にある悩みが多いです。
その作業は楽しくて、更に乗り気になっていきました。
まずは、生徒からスタートした訳ですね。
先生は、理想の先生はどういった先生か考え、「肯定してくれる先生」という結論になりました。
魔法が出てきたのは、精霊と触れ合うという発想があり、アイデアが出せるためです。
先生の案は3パターン程度考えましたが、最終的には今の魔彩先生の姿になりました。
編集からは熊の先生といった提案も出たものの、自分にはしっくりきませんでした。(笑)
熊の先生にならなくて、よかったです。(笑)
戻りますが、生徒はどのようにして考えたのでしょう?
生徒は、自分の友達関係を振り返って考えました。
生徒の中に「よしき」というお腹を出して踊る子どもがいますが、自分の幼馴染にそういう子がいました。(笑)
29人それぞれ違うように、なるべく色々な子どもを考えようと思いました。
作品の中の生徒でいうと、先生は誰だったのでしょうか?(笑)
自分は、小学6年生の頃は「千葉ちゃん」で、それより小さい頃は「ヤオキ」でした。
今思うと、小学6年生の頃は、自己中心的だったと思います。(苦笑)
モノをつくるところは、「ヤオキ」に近いです。
物語には、本当に自分が反映されますね。
作品の舞台は、母校であると聞きました。
そうです。
母校では、取材をさせてもらいました。
以前に教育実習をしたのも、ここでした。
連載中の出来事や苦労話などについて教えてください。
他の作品に比べて、話を作るのに時間がかかりました。
最初にさっちゃん編までネーム(漫画を描く前の大まかな原稿)を作っていましたが、連載が始まるとあっという間に追いつかれてしまいました。
千葉ちゃん編で、新しくネームを描くことになった時は、不安でした。(苦笑)
なるほど。
元々、描くのは早い方ではありません。
締切に追われ、ギリギリのタイミングを聞いて、ギリギリ合わせていた状況です。
編集には、「遅い」「うるさい」「わがまま」と、迷惑をかけたと思います。
内容に関して、編集と意見がぶつかるようなことはありましたか?
ほとんどありませんでした。
大きく変わったものとしては、ヤオキ編の後、すぐにさっちゃん編が始まる予定でした。
しかし、その間に、先生の話などを入れないと分かりづらいといった助言があり、入れるようにしました。
それ以外は、わりと好き放題に描いていました。(笑)
アシスタントは、使われたのでしょうか?
初めて、アシスタントを依頼しました。
チームで対応してもらい、多い時には複数人に稼動してもらいました。
当初は指示などに苦労しましたが、連載の後半にはそれにも慣れ、大分楽になりました。
他に、大変だったことはありますか?
マンガワンに「作者コメント」という機能がありましたが、そのコメントを毎回考えるのはやや苦労しました。
とは言え、コメントやTwitterの反応、ファンレターなどには元気づけられ、作品を描く支えになりました。
「ヤオキが主人公でなければ読むのを止める」「千葉ちゃんの行動が許せない」などといった作者の予想外や予想以上の反応も知りました。
雑誌や単行本だけではそこまでは分からないためとても参考になり、コメント数が伸びた時は家族全員で喜んだりしました。(笑)
ヤオキ中心の話でないことに、驚かれた反応も多かったそうですね?
作品を考える中で、ヤオキをずっと主人公にした方がよいという意見もありました。
ただ、自分は群像劇を考えていて、そういう風にしたくはありませんでした。
何が正しいかは分からない話ですが、自分の中では「はなまる魔法教室」という作品はこういったものだということです。
連載中の出来事といえば、河内長野市の小中学校に作品を置いてもらったと聞きました。
父親が市内の小中学校に本を置かせてもらえないかと頼んでくれたところ、市長によいと言ってもらえました。
そこで図書館に、単行本の1巻と2巻を置いてもらいました。
反応は、どうでしたか?
嬉しいことに、子ども達から手紙や色紙が届きました。
絵を描いてくれた子どももいました。
司書からも、手紙が届きました。
3巻が入手できないということで、近所の本屋に置いてもらったという出来事もありました。
そのような「はなまる魔法教室」ですが、連載終了となりました。
残念な話です。
さっちゃん編までで終わるか、単行本は出ないものの千葉ちゃん編までやるか、選択肢が示されました。
そこで、千葉ちゃん編までやることは、迷わず決めました。
その上で、2巻がたくさん売れたら連作終了が変わるか確認しました。
そして、Twitterでキャンペーンを実施するなどあらゆる取り組みを行いましたが、結果的には連載終了の流れを変えることはできませんでした。
なるほど・・・。
今考えると、出版社に対して甘えがありました。
出版社は作品を、我が子のように考えてくれると思っていました。
でも、本当の作品の親は、自分だけです。
甘え過ぎてはいけないということですね。